海外におけるピアカウンセリングの「就労」と「ビジネス」の実態

日本でピアカウンセラー就労化やビジネス化を目指す上で、海外の成功事例から学ぶことは非常に有益です。特に、メンタルヘルスの分野では、ピアカウンセリングが医療・福祉システムの一部として専門職化し、雇用されているケースが一般的です。

1. アメリカ:国家資格化と医療サービスへの統合

アメリカは、ピアカウンセリング就労化を最も進めている国の一つです。

  • 認定ピアスペシャリスト(Certified Peer Specialist: CPS): 多くの州でこの資格制度が確立されており、精神疾患からのリカバリー経験を持つ当事者が、厳格な研修と試験を経て認定されます。この資格を持つピアカウンセラーは、公的なメンタルヘルスケア機関(病院、地域精神保健センターなど)で、有償の専門職として雇用されています。
  • 雇用と給与: CPSの多くは、フルタイムまたはパートタイムの職員として働き、臨床心理士やソーシャルワーカーなど他の専門職と連携しながら、カウンセリング、グループファシリテーション、リカバリープラン作成の支援、地域資源への接続、危機対応サポートなど多岐にわたる業務を行います。給与水準は州や雇用形態によって異なりますが、安定した生活を営めるレベルの収入を得ることが可能です。
  • 財源とビジネスモデル: メディケイド(低所得者向け医療扶助)を通じたピアサポートサービスへの償還(支払い)制度が確立されている州が多く、これがピアカウンセラー雇用の大きな財源となっています。つまり、ピアカウンセリングが公的な医療ビジネスの一部として位置づけられ、サービスに対する対価が支払われる仕組みが機能しているのです。

2. イギリス:NHSへの組み込みとピアサポートワーカーの活躍

イギリスでも、ピアカウンセリングは公的医療サービスである**NHS(国民保健サービス)**の中に深く組み込まれ、就労の機会が創出されています。

  • ピアサポートワーカー精神疾患の経験を持つ人々が「ピアサポートワーカー」としてNHSのチームに雇用されています。彼らは、リカバリーを志向する患者さんを支援し、専門職との連携を密に行います。
  • 地方公務員並みの給与: 例えば、ノッティンガム州では「ピアサポートワーカー雇用」を開始し、地方公務員並みの給与が支払われている事例が報告されています。これは、ピアサポートが社会的に価値のある就労として評価されている証拠です。
  • 多様な役割: ピアサポートワーカーは、身近な相談支援、早期介入支援、リカバリーカレッジの企画・運営・教育担当など、幅広い役割を担っています。これにより、メンタルヘルスケアの多角化と質の向上に貢献しています。

3. オーストラリア:専門職化と多様な働き方

オーストラリアでも、ピアカウンセリングは専門職として確立されつつあります。

  • ピアサポーターの定義: オーストラリアでは、精神疾患などの当事者が、同じ仲間という視点からサポートを行うスタッフを「ピアサポーター」と呼び、専門家とは異なる独自の価値を持つ存在として認識されています。
  • 多様な雇用形態: アルコールや薬物依存症の施設、就労移行支援施設などで、当事者がスタッフとして雇用される事例は珍しくありません。また、コミュニティサポートワーカーとして、訪問介護のような形でピアサポートを提供する就労機会も存在します。
  • 政府の推進: オーストラリア政府も精神保健サービスにおけるピアサポートの導入を積極的に推進しており、質の高い訓練と専門性を持つピアカウンセラーの育成と雇用に力を入れています。

4. その他、海外のビジネスモデル事例

海外では、上記のような公的なシステムへの統合だけでなく、民間レベルでもピアカウンセリングビジネスとして成立させている事例が見られます。

  • オンラインピアサポートプラットフォーム: 有料のオンラインピアカウンセリングサービスや、サブスクリプション型のピアサポートコミュニティなど、テクノロジーを活用したビジネスモデルが展開されています。これにより、地理的な障壁を越えてピアカウンセラーと利用者を結びつけ、収益を得ています。
  • 企業向けメンタルヘルス研修ピアカウンセラーが、企業に対して精神疾患への理解促進やスティグマ軽減に関する研修プログラムを提供し、対価を得るビジネスも存在します。
  • 書籍出版やコンサルティング: 自身のリカバリー経験やピアカウンセリングのノウハウをまとめた書籍の出版、あるいは、ピアサポートプログラムの導入支援を行うコンサルティングサービスなども、ビジネスとして成立しています。

まとめ:海外に学び、日本での「就労するピアカウンセラー」の道を拓く

海外の事例から明らかなように、ピアカウンセリングは、就労ビジネスとして十分に成立し得る、持続可能なメンタルヘルスケアの形です。

日本が海外に学ぶべきは、ピアカウンセラーを単なるボランティアではなく、専門的なスキルを持つ「職業」として位置づけ、その活動に対する対価を保証することです。これにより、ピアカウンセラー自身の生活が安定し、質の高い人材が育成され、ピアカウンセリングメンタルヘルスケアシステムの中に本格的に統合されていくでしょう。

私たちの目標である「就労につながるピアカウンセラーを増やす」ことは、日本のメンタルヘルスケアを次のステージに進め、精神疾患からのリカバリーをより身近なものにし、地域共生社会を実現するための重要な鍵となるはずです。