日本では精神障害を抱えるピアカウンセラーをボランティアとして扱っている?現状と課題

日本では、精神障害からの回復経験を持つピアカウンセラーが、その尊い経験を活かして他者を支援する活動が広がっています。しかし、ご指摘の通り、その多くがボランティアという形で扱われているのが現状です。これは、海外の先進事例と比較すると大きな課題であり、ピアカウンセリングの本格的な普及を阻む要因となっています。

1. 根強い「ボランティア」としてのイメージと実態

ピアカウンセリングは、「仲間同士の支え合い」という自助グループの精神から発展した側面が強く、その性質上、「無償の善意」として捉えられがちです。

  • 無償または低報酬の活動: 多くのピアカウンセラーは、NPO法人や自助グループの活動の中で、交通費程度の謝金や、無償のボランティアとして活動しています。一部の障害福祉サービス事業所では、ピアサポートに関する「加算」が導入されたものの、ピアカウンセラーへの十分な報酬につながっていないケースも少なくありません。
  • 非正規雇用の不安定さ: 医療機関や行政機関でピアカウンセラーが雇用される場合でも、非正規雇用や短時間勤務が多く、安定した就労にはつながりにくいのが現状です。これにより、ピアカウンセラー自身が経済的に自立し、活動を継続することが困難になるケースが見られます。
  • 役割の不明確さボランティアとしての位置づけが強いため、他の専門職(臨床心理士、精神保健福祉士など)との役割分担や連携が曖昧になりがちです。これにより、ピアカウンセラーが自身の専門性を十分に発揮できない、あるいは過度な負担を抱えてしまうといった問題も発生します。

2. 「ボランティア扱い」がもたらす深刻な課題

ピアカウンセラーボランティアとして扱われる現状は、個人と社会の両面で様々な課題を生み出します。

  • ピアカウンセラー自身の負担と疲弊:
    • 経済的な不安定: 収入がない、あるいは少ないため、生活のために別の仕事をせざるを得ず、ピアカウンセリングに十分な時間を割けなかったり、活動そのものを断念したりするケースがあります。これは、精神障害からの回復途上にあるピアカウンセラーにとって、大きなストレスとなります。
    • モチベーションの維持困難: 自身の経験という貴重な資源を提供しているにもかかわらず、正当な評価や対価が得られないことは、モチベーションの低下や燃え尽き症候群(バーンアウト)につながる可能性があります。
    • スキルアップ機会の不足: 安定した財源がないため、研修やスーパービジョンといったスキルアップの機会が限られ、ピアカウンセラー自身の専門性向上を妨げる要因となります。
  • ピアカウンセリングの質と持続可能性の低下:
    • 人材の確保困難: 安定した就労機会がないため、ピアカウンセラーを目指す人が増えにくく、質の高い人材を育成・確保することが困難になります。
    • サービスの地域格差ボランティアに依存する性質上、活動の有無や質が地域によって大きく異なり、ピアカウンセリングを受けたくても受けられないメンタルヘルスケアの空白地帯が生まれてしまいます。
    • 効果のエビデンス蓄積の困難ボランティア活動では、データの収集や効果検証が組織的に行われにくく、ピアカウンセリングの有効性を示すエビデンスが蓄積されにくいという課題があります。
  • 社会的な認知度と信頼性の停滞:
    • 「専門性」への誤解ボランティアとして扱われることで、ピアカウンセリングが持つ専門性や、精神障害からのリカバリー経験が持つビジネスとしての価値が社会に伝わりにくくなります。
    • スティグマの再生産精神障害を持つ人がボランティアとしてしか活躍できないという現状は、「精神障害を持つ人は就労が難しい」という社会のスティグマを間接的に再生産してしまう可能性すらあります。

3. 海外の事例に学ぶ「就労」と「ビジネス」への転換

アメリカやイギリスでは、ピアカウンセラーが公的なメンタルヘルスケアシステムの中に組み込まれ、安定した就労機会を得ています。これは、ピアカウンセリングを「専門性を持つ仕事」として明確に位置づけることで、上記の課題を克服し、持続可能なピアサポートを実現している良い例です。

  • 認定資格制度と雇用: 厳格な研修と試験を経て認定ピアスペシャリストとして公的機関に雇用され、給与を得ています。
  • 医療保険制度との連携: サービスに対する報酬が医療保険制度から支払われる仕組みが整っており、ビジネスとしての安定性を確保しています。

まとめ:ピアカウンセラーの「プロ化」が日本の未来を拓く

日本で精神障害を抱えるピアカウンセラーボランティアとして扱われる現状は、彼らのエンパワメントを妨げ、ピアカウンセリングの普及と質向上を阻む大きな課題です。

この課題を乗り越え、ピアカウンセリングを日本のメンタルヘルスケアの確かな基盤とするためには、ピアカウンセラーを「ボランティア」から「就労を伴うプロフェッショナル」へと転換させていく必要があります。

具体的には、統一的な資格制度の確立、医療・福祉サービスにおける積極的な雇用と報酬の保障、そしてピアカウンセリングビジネスモデルの構築が求められます。

ピアカウンセラー就労を通じて安定し、その専門性と経験を最大限に発揮できる社会は、精神障害を持つ人々にとっての希望となり、スティグマのない、真の地域共生社会を実現するための強力な原動力となるでしょう。