
安定からその先の豊かな人生へ【後編:維持期と安定後の生活】
規則正しい生活リズムの確立: 特に双極性障【前編】では、精神疾患の発病から診断、そして治療の初期段階について解説しました。症状が最もつらい時期を乗り越え、ある程度の安定が見えてきたら、次のステップは「安定した状態を維持し、より豊かな日常生活を送る」ことです。
このブログ【後編】では、症状が安定した後の維持期治療、そして安定した生活を続けるための工夫について、精神疾患の種類を織り交ぜながら詳しく解説します。
安定を維持するための「維持期治療」
急性期を乗り越え、症状が落ち着いたとしても、治療は終わりではありません。特に双極性障害や統合失調症など、再発しやすい精神疾患では、症状の再燃を防ぐための「維持期治療」が非常に重要になります。
- 薬物療法の継続: 「症状がないから薬はやめても大丈夫」と自己判断で服薬を中断してしまうことが、再燃の最大の原因となります。
- 双極性障害: 気分安定薬の継続服用は、躁状態とうつ状態の波を予防するために不可欠です。
- 統合失調症: 抗精神病薬を継続することで、幻覚や妄想の再燃リスクを大幅に下げます。
- うつ病、不安症: 症状が改善しても、再発予防のために数ヶ月から年単位で抗うつ薬や抗不安薬の継続が推奨されます。 医師の指示に従い、勝手に量を減らしたり中断したりしないことが何よりも大切です。
- カウンセリングの継続と深化: 症状が安定してからのカウンセリングは、より深い自己理解や生活スキルの向上に焦点を当てます。
- 認知行動療法(CBT): うつ病や不安症群、強迫症では、症状の原因となる思考パターンや行動の癖を修正し、再発予防のための対処スキルを磨きます。
- 対人関係療法(IPT): 人間関係のストレスが症状の引き金となる場合、コミュニケーションスキルを向上させ、より健全な人間関係を築く手助けをします。
- 弁証法的行動療法(DBT): 境界性パーソナリティ障害など、感情のコントロールが難しい場合に、感情調整スキルや苦痛耐性スキルを習得する上で非常に有効です。
- 心理教育: 病気との付き合い方を深く学び、再発のサインを早期に察知し、対処する力を養います。
- リハビリテーションと社会復帰支援: 病気によって失われた社会生活のスキルを取り戻し、仕事や学業、社会活動への復帰を目指します。
- 精神科デイケア: 定期的に通所し、グループ活動やプログラムを通じて、生活リズムを整え、対人関係スキルや社会参加能力を高めます。
- 作業療法・就労支援: 仕事への復帰を目指す方には、作業療法を通じて集中力や持続力を養ったり、就労移行支援サービスを活用して就職活動をサポートしたりします。
- ソーシャルスキルトレーニング(SST): 統合失調症や**自閉スペクトラム症(ASD)**など、対人関係の苦手さがある場合に、具体的なコミュニケーションの練習を行います。
安定後の豊かな生活を続けるための工夫
病状が安定しても、心の健康を維持し、自分らしい豊かな生活を送るためには、日々の工夫と自己管理が欠かせません。
- 害や**睡眠-覚醒障害群(不眠症など)**では、睡眠のリズムが気分の安定に直結します。毎日決まった時間に起床・就寝し、バランスの取れた食事を心がけることが、心身の安定の基盤となります。
- ストレス管理とストレスコーピング: ストレスは多くの精神疾患の再燃のトリガーとなります。
- 自分にとって何がストレスになるのかを認識し、ストレスをため込まない工夫(趣味、リラクゼーション、適度な運動など)を見つけること。
- ストレスを感じたときに、適切に対処するスキル(ストレスコーピング)を身につけることが重要です。
- 再発のサインを早期に察知する: 自身の気分の変化、睡眠の変化、行動の変化など、再発の初期サインを把握しておくことが非常に重要です。例えば、「眠れなくなる日が続く」「些細なことでイライラする」「急に活動的になる」といった、自分特有のサインに気づいたら、早めに主治医に相談するなど、対処行動を取ることが再燃の重症化を防ぎます。
- サポートシステムの活用: 家族、友人、地域の支援機関、自助グループなど、安心して相談できるサポートシステムを築いておくことは、孤立感を防ぎ、困難な時に支えとなる大切な要素です。パーソナリティ障害など、対人関係に困難を抱えやすい疾患では、特に重要です。
- 自分を大切にするセルフケア: 完璧を目指さず、自分のできる範囲で、心と体が喜ぶ活動を取り入れること。好きな音楽を聴く、自然の中で過ごす、美味しいものを食べるなど、自分を労わる時間を持つことが、心のエネルギーを補充し、安定を支えます。
精神疾患との付き合いは、決して短距離走ではありません。時に困難な坂道があるかもしれませんし、回り道に見えることもあるでしょう。しかし、適切な治療を継続し、自己管理のスキルを身につけ、周囲のサポートを得ながら、一歩ずつ前に進むことで、必ず安定した、自分らしい豊かな人生を築くことができます。
もしあなたが今、この道のりのどこかにいるなら、どうぞ一人で抱え込まず、専門家の力を借りてください。あなたの回復の道のりが、希望に満ちたものとなるよう、心から願っています。