ピアカウンセラー・ピアサポーターは「障害者雇用」ではない、「障害者にしかできない」特別な仕事

ピアカウンセラーピアサポーターは、障害者雇用の枠で捉えられるべきではない。彼らは障害者にしかできない、唯一無二の特別な仕事を担っている」。このお考えは、ピアサポートの真髄を捉えており、日本のメンタルヘルスケア、ひいては社会全体の変革にとって極めて重要な視点です。

「障害者雇用」ではない、その理由

日本の障害者雇用制度は、障害を持つ人々就労を促進し、社会参加を支援するための重要な枠組みです。しかし、ピアカウンセラーピアサポーターの役割を「障害者雇用」という一般的な枠で捉えることは、彼らの特別な価値専門性を見落とすことにつながります。

1. 経験が直接的な「職務能力」となる

唯一無二の専門性ピアカウンセラーピアサポーターの核となる能力は、精神疾患からの回復経験そのものです。この当事者経験は、座学や訓練だけでは決して得られない、人間的な深みと洞察力を生み出します。彼らの「障害」は、カウンセリングサポートにおいて「強み」となり、相談者との間に深い共感と信頼を築くための「資格」となるのです。

他の職種では代替不可能臨床心理士や精神科医は専門知識を提供しますが、精神疾患を実際に経験した者だからこそ理解できる「言葉にならない苦しみ」や「回復のリアルな道のり」を伝えることはできません。この当事者性は、ピアカウンセラーピアサポーターにしかできない、まさに代替不可能な職務能力です。

2. 「障害者枠」に閉じ込めることの弊害

特別な価値の矮小化ピアカウンセラーピアサポーターを「障害者雇用」と位置づけることは、彼らの特別な専門性を「障害があるから特別に雇う」という慈善的、あるいは福利厚生的な視点に矮小化してしまうリスクがあります。これは、彼らが持つ真の価値を社会に誤解させることになりかねません。

賃金や待遇の停滞障害者雇用の枠内では、往々にして賃金水準が低く設定されたり、昇進・昇給の機会が限られたりする傾向があります。これでは、彼らがカウンセリング収益生活できるような安定した就労に繋がらず、「特別な存在」に見合う「特別な賃金」が発生しないことになってしまいます。

社会的なスティグマの再生産: 「障害者雇用」というラベルは、良くも悪くも障害者という認識を強くさせ、精神疾患を抱える人々に対するスティグマを払拭しにくい側面があります。ピアカウンセラーピアサポーターは、精神疾患があっても専門性を持ち、社会貢献ができることを示すロールモデルであるべきです。彼らが障害者雇用という枠ではなく、その専門性ゆえに雇用される存在となることで、スティグマの最終的な打破に繋がります。

「障害者にしかできない」特別な仕事を確立するために

ピアカウンセラーピアサポーターが、「障害者にしかできない特別な職種として社会に確立されるためには、以下のステップが不可欠です。

1. 「当事者経験」を「資格化」する

統一的な認定制度の確立精神疾患回復経験を活かすための知識、スキル、倫理を体系的に学び、それを公的に証明する統一的な認定資格制度(例:アメリカの認定ピアスペシャリスト)を日本でも確立する必要があります。この資格が、彼らが特別な職種であることの証となります。

資格と報酬の紐付け: この認定資格が、具体的な賃金体系や就労条件と明確に紐付けられるように、制度設計を進めることが重要ですし、これが実現すれば、彼らの活動がビジネスとして成立する道が開けます。

2. 医療・福祉システムにおける「正規職」としての位置づけ

専門職としての雇用促進: 病院、クリニック、地域精神保健センター、企業など、様々なメンタルヘルスケアの現場で、ピアカウンセラーピアサポーターが「障害者雇用枠」ではなく、「当事者専門職」として、他の医療専門職と同等か、それに準ずる待遇で正規雇用されるよう、政策的な働きかけを強化します。

診療報酬・福祉報酬での評価ピアサポートピアカウンセリングが、公的な医療保険や福祉サービスにおいて、明確かつ適正な診療報酬・福祉報酬の対象となるよう、制度改革を推進します。

3. 社会的な認識の変革と啓発

「経験が力になる」の浸透ピアカウンセラーピアサポーター特別な価値を、一般市民、医療関係者、企業など、あらゆる層に広く周知する啓発活動を強化します。「障害を乗り越えた経験が、他者を救う特別な専門性となる」というメッセージを伝え続けます。

「ボランティアの壁」の打破: 彼らの活動がボランティアではなく、賃金を伴うプロフェッショナルな仕事であることを強く訴え、社会の認識を変えていく必要があります。

まとめ:真のインクルーシブ社会へ

ピアカウンセラーピアサポーターを「障害者雇用ではない、障害者にしかできない特別な仕事」として確立することは、精神障害を持つ人々のエンパワメントを最大化し、彼らがその経験を誇りとして社会に貢献できる自立した生活を保障します。

これは、メンタルヘルスケアの質を飛躍的に向上させるだけでなく、障害を単なる制約ではなく、特別な才能視点と捉え、多様な人々がそれぞれの持ち味を活かして輝ける、真にインクルーシブな社会の実現につながる、極めて重要なステップです。