知的発達症の分類と重症度

はじめに

知的発達症(知的障害)は、発達期に知的機能と適応行動に制限がある状態を指します。その特徴や困難さは人によって大きく異なり、一律に語ることはできません。知的発達症を理解し、適切な支援を提供するためには「どの程度の制限があるのか」という重症度の評価が重要になります。

国際的にはDSM-5やICD-11といった診断基準が用いられており、それらでは知的発達症を「軽度」「中等度」「重度」「最重度」に分類しています。この分類は単なるラベル付けではなく、本人の生活上の困難さを把握し、支援方法を検討するための指針となります。この記事では、知的発達症の分類と重症度について詳しく解説していきます。

知的発達症の重症度分類の考え方

かつてはIQ(知能指数)の数値を基準に重症度が決められることが多くありました。たとえば、IQが50〜70であれば軽度、35〜50であれば中等度、といった具合です。しかし、現在ではIQだけで重症度を決めるのは適切ではないとされています。

その理由は、同じIQでも生活上の困難さは人によって大きく異なるからです。例えば、IQが低めでも家族や周囲の支援があれば社会生活を比較的自立して送れる人もいれば、逆に支援がなければ日常生活に大きな支障をきたす人もいます。そのため、近年の診断基準では「適応行動」の評価を重視し、本人の生活における実際の困難さに基づいて重症度を分類する方向に変わってきました。

DSM-5における重症度分類

アメリカ精神医学会のDSM-5では、知的発達症の重症度を以下の4段階に分類しています。

軽度(Mild)

軽度の知的発達症は、知的発達症の中で最も多く、全体の約85%を占めるとされています。学齢期には読み書きや計算などの学習に遅れが見られるものの、適切な支援を受ければ基礎的な学力を身につけることができます。

成人期になると、日常生活はある程度自立でき、単純作業や補助的な業務に従事することも可能です。ただし、金銭管理や複雑な計画を立てることは難しい場合が多いため、生活設計や社会的判断には支援が必要です。

中等度(Moderate)

中等度の知的発達症は全体の約10%を占めます。学齢期には特別支援教育を受ける必要があり、読み書きや簡単な計算が可能になる場合もありますが、学習には継続的な支援が必要です。

成人期には、身の回りのことはある程度できるものの、自立した生活は難しく、地域生活を送るためには部分的な支援が不可欠です。職業的には単純作業や軽作業に従事することがありますが、指導や監督を伴う場合が多いです。

重度(Severe)

重度の知的発達症は全体の約3〜4%を占めます。言語の発達が限定的で、コミュニケーション手段が限られることが多いです。学齢期には基本的な自己管理や生活スキルの習得が中心となり、読み書きや計算といった学習は難しい場合が多いです。

成人期には、ほとんどの生活において支援を必要とします。日常的な活動は支援者の助けを借りながら行い、社会生活や就労は非常に制限されます。

最重度(Profound)

最重度の知的発達症は全体の約1〜2%とされています。知的機能の制限が著しく、言語はほとんど発達せず、基本的なコミュニケーションも困難な場合が多いです。学習や日常生活スキルの習得はごく限られており、食事や排泄、移動といった基礎的な行動にも常時の支援が必要です。

成人期になっても自立は不可能であり、家庭や施設などでの継続的な支援が不可欠です。

ICD-11における重症度分類

世界保健機関(WHO)のICD-11でも、知的発達症を軽度・中等度・重度・最重度に分類しています。DSM-5との違いは、IQの数値を絶対的な基準とせず、適応行動に基づいて重症度を判断する点をより明確にしているところです。

ICD-11では、個人の文化的背景や社会環境も考慮することが推奨されています。例えば、同じスキルレベルであっても、社会の支援体制や教育制度が充実している国では生活の自立度が高まる可能性があります。そのため、単純に「IQが何点だからこの区分」とするのではなく、個々の生活状況を踏まえた評価が重視されています。

日本における制度上の分類

日本では、知的発達症の支援制度として「療育手帳」があります。療育手帳は知的障害者福祉法に基づき交付されるもので、等級によって利用できる福祉サービスや支援内容が異なります。

多くの自治体では、知能検査と適応行動評価を総合して「軽度」「中度」「重度」「最重度」に区分します。ただし、自治体によって判定基準に若干の違いがあるため、地域によって等級の出方が異なる場合もあります。

療育手帳を取得することで、医療費の助成、交通機関の割引、就労支援や福祉サービスの利用など、生活を支える多くの制度が利用可能になります。

重症度分類の意義

知的発達症を重症度ごとに分類することは、本人を制限的に評価するためではなく、適切な支援を提供するために必要です。例えば、軽度の人には学習支援や就労支援を重点的に行う一方で、重度や最重度の人には日常生活の介助や医療的ケアを中心に行う必要があります。

また、重症度分類は家族にとっても今後の生活設計を考える指針になります。将来的にどのような支援が必要になるのか、どのような福祉サービスを利用できるのかを理解することで、安心して生活の見通しを立てることができます。

重症度分類に伴う課題

一方で、重症度分類には課題もあります。第一に、分類が固定的に捉えられやすいという点です。実際には成長や学習、支援環境によって本人の能力は変化しますが、一度「中等度」と診断されると、そのイメージが固定されてしまうことがあります。

第二に、IQや適応行動検査は文化や社会的背景に影響を受けやすく、必ずしも本人の能力を正確に反映しているとは限らない点です。例えば、家庭で十分な学習経験を得られなかった場合、本来の能力より低く評価される可能性もあります。

こうした課題を踏まえ、重症度分類はあくまで「支援を考えるための目安」として柔軟に活用することが重要です。

まとめ

知的発達症の分類と重症度は、本人の生活上の困難さを把握し、適切な支援を提供するための大切な基準です。従来はIQに基づく分類が主流でしたが、現在は適応行動を重視する方向に変化しています。DSM-5やICD-11では「軽度」「中等度」「重度」「最重度」という4区分が採用され、日本でも療育手帳を通じて支援制度と結びつけられています。

ただし、重症度分類は本人の能力を固定的に決めつけるものではなく、あくまで支援の方向性を考えるための目安です。知的発達症のある人が持っている可能性を尊重し、個々に合わせた支援を行うことが最も大切です。

重症度分類を正しく理解し活用することで、知的発達症のある人がより豊かに、自分らしく生きられる社会を実現していくことができます。