日本のピアカウンセリングはビジネスとして成立していない?現状と課題

日本のピアカウンセリングピアサポート活動は、その多くが、個人の善意に基づくボランティア活動、あるいはNPO法人や一部の障害福祉サービス事業所での、限られた報酬や補助金に支えられています。

1. 制度上の位置づけと財源の課題

  • 不安定な財源: 現在、日本のピアカウンセリングピアサポートの活動は、公的な医療保険の適用が限定的であり、多くは補助金、寄付、または事業所ごとの裁量による予算に依存しています。このため、活動の規模や継続性が財源に大きく左右され、安定したビジネスモデルを構築しにくい状況にあります。
  • 「加算」制度の限定性: 障害福祉サービスの一部(例:就労継続支援B型、地域移行支援、地域定着支援など)では、ピアサポートの実施や体制を評価する「加算」が新設されました(令和3年度の報酬改定など)。これはピアカウンセラー就労に繋がる一歩ではありますが、加算単価が十分に高くなかったり、算定条件が厳しかったりするケースもあり、事業所の収益に大きく貢献するまでには至っていないのが現状です。
  • 統一的な資格・報酬体系の不在: アメリカの「認定ピアスペシャリスト(CPS)」のように、全国的に通用する統一的な資格制度や、それと紐づく明確な報酬体系が日本にはまだありません。このため、ピアカウンセラーとしてのキャリアパスが見えにくく、就労先によって給与や待遇が大きく異なるなど、不安定な要素が多く残ります。

2. 社会的認知度と需要形成の課題

  • 「無償の支援」というイメージピアサポートは「仲間による支え合い」という性質上、多くの人が無償のボランティア活動というイメージを持ちがちです。これにより、有料サービスとしての価値が認識されにくく、ビジネスとして対価を支払うことへの理解が追いついていない側面があります。
  • スティグマの影響精神疾患に対するスティグマが根強いため、心の健康に関するカウンセリング自体への抵抗感が大きく、有料サービスとして気軽に利用する文化が十分に育っていません。また、ピアカウンセラー自身が精神疾患の経験を持つことを公にすることへのハードルも高く、ビジネスとしての展開を妨げる要因となることがあります。
  • ビジネスとしての成功事例の不足ピアカウンセリングビジネスとして成功し、安定した収益を上げている具体的な成功事例がまだ少ないため、新たな参入者や投資家が生まれにくいという負のループに陥っています。

3. 専門職との連携における位置づけの課題

  • 医療やカウンセリングの現場では、臨床心理士や精神科医といった資格を持つ専門家が主導的な役割を担っています。ピアカウンセラーが、その専門職とどのように連携し、ビジネスとして貢献できるのか、明確な役割分担や協働モデルがまだ確立されていません。このため、専門機関が積極的にピアカウンセラーを雇用し、サービスの一部として位置づける動きが限定的です。

しかし、ビジネス化への兆しと未来の可能性

現状は課題が多いものの、日本でもピアカウンセリングビジネスとして成立させようとする動きは確実に存在し、その可能性は十分にあります。

  • オンラインピアカウンセリングサービスの台頭: 一部の民間企業が、オンラインピアカウンセリングサービスを提供し始めています。これは、場所の制約をなくし、より多くの利用者にアプローチできるビジネスモデルとして期待されています。有料でサービスを提供し、ピアカウンセラーに報酬を支払う仕組みを構築しようと試みています。
  • 法人向けサービスや研修: 企業のメンタルヘルス対策として、従業員向けのピアカウンセリングや、精神疾患への理解を深めるためのピアカウンセラーによる研修を提供するビジネスも徐々に増えつつあります。
  • 当事者による起業: 自らのリカバリー経験を活かし、ピアサポートを核とした事業(例:カフェ運営、就労支援、コミュニティスペース運営など)を立ち上げる当事者起業家も現れています。

まとめ:持続可能なピアカウンセリングのためにビジネス化は不可欠

現状、日本でピアカウンセリングビジネスとして十分に成立しているとは言えませんが、その必要性と潜在的な価値は非常に高いです。

ピアカウンセラーが安定した就労を得られることは、彼ら自身のエンパワメントに繋がり、ピアカウンセリングの質と継続性を高めます。そして、それはひいては、心の健康に悩む人々がより安心してサポートを受けられ、精神疾患へのスティグマが軽減される地域共生社会の実現に不可欠です。

海外の成功事例を参考にしながら、日本独自の文化や制度に合わせたビジネスモデルを構築し、ピアカウンセリングメンタルヘルスケアの確固たる基盤となるよう、積極的に取り組んでいくことが求められます。