【第2部:統合失調症・双極性障害 – 現実との狭間で揺れる心】

【第1部】では、神経発達症の特性と、それによる日常生活の苦悩に焦点を当てました。この【第2部】では、統合失調症がもたらす現実との解離、そして双極性障害に見られる気分の波が、どのように日々の生活を困難にするのかを掘り下げていきます。

これらの精神疾患が、あなたの心や体、そして生活にどのような影響を与えているのか、より深く理解する手助けになれば幸いです。

2. 統合失調症:現実と非現実の間で揺れ動く体験

統合失調症は、脳の機能に偏りが生じ、思考、感情、知覚、行動に大きな障害が生じる精神疾患です。現実との接触が困難になることで、これまで当たり前だった日常生活が大きく変化します。

  • 統合失調症
    • 症状の深掘り:
      • 陽性症状: 「陽性」とは症状が「現れる」という意味です。
        • 幻覚: 最も特徴的なのが幻聴です。誰もいないのに悪口が聞こえる、指示する声が聞こえる、ささやき声が聞こえるなど、その内容は様々で、本人にとっては非常にリアルな体験です。幻視や体感幻覚(体が締め付けられる感じなど)も現れることがあります。
        • 妄想: 根拠のない確信を伴う思い込みで、周囲がどれだけ否定しても訂正が困難です。「誰かに監視されている」「思考が抜き取られている」「毒を盛られている」といった被害妄想、自分の行動が周囲に知られているという注察妄想、電波で操られているという被影響妄想などがあります。
      • 陰性症状: 「陰性」とは症状が「失われる」という意味です。感情の表出が乏しい(無表情で、感情がこもっていないように見える)、意欲がわかない(何もする気が起きない)、口数が少ない、人との交流を避ける、楽しみを感じにくい(アパシー)といった症状で、日常生活の活動性が著しく低下します。
      • 解体症状(思考障害、行動障害): 思考がまとまらず話が飛んでしまう(思考途絶)、話す内容にまとまりがない(支離滅裂)、意味不明な言葉を話す、同じ言葉を繰り返す、不適切な言動、奇妙な行動が見られることがあります。
    • 日々の苦悩(日常の困りごと):
      • 社会生活からの孤立: 幻聴や妄想に苦しむことで、他者への不信感が強まり、外出が困難になったり、自宅に引きこもりがちになったりします。人混みでの幻聴が辛く、スーパーに行けないなどのケースも。周囲が理解できない言動に戸惑い、関係性が途絶えてしまうことも少なくありません。
      • 仕事や学業の継続: 集中力の低下や意欲の喪失、思考の混乱により、仕事や学業の継続が非常に困難になります。指示が理解できなかったり、納期を守れなかったりすることも多く、職を失うことにもつながります。
      • 身辺自立の困難: 意欲の低下や思考の混乱から、入浴や着替え、食事の準備といった基本的な身辺自立が難しくなることがあります。衛生状態の悪化につながることもあり、家族の支援が不可欠になります。
      • コミュニケーションの困難: 思考がまとまらないため会話が成り立たず、周囲から「話が通じない」と誤解されたり、避けられたりすることがあります。幻覚や妄想の内容について話すことで、周囲を困惑させてしまうことも。

3. 双極性障害:気分のジェットコースターとその影響

双極性障害は、気分が著しく高揚する「躁状態」と、著しく落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。その波の程度によってI型とII型に分かれ、どちらのタイプも日常生活に大きな影響を及ぼします。

  • 双極I型障害
    • 症状の深掘り:
      • 躁状態: 極端に気分が高揚し、興奮しやすい、怒りっぽいといった感情の不安定さが見られます。睡眠時間が異常に短くても平気(数時間で活動できる)で、活動量が異常に増えるのが特徴です。多弁で止まらず、考えが次々に浮かび、衝動的な行動浪費、ギャンブル、無謀な投資、性的な逸脱行為など)に走りやすいです。自分は何でもできる、特別な存在だという誇大的な考えを持つこともあります。重度の場合は現実との乖離が大きく、入院が必要になることもあります。
      • うつ状態: (後述のうつ病の症状に類似)
    • 日々の苦悩(日常の困りごと):
      • 金銭トラブル: 躁状態での衝動的な浪費や無謀な投資により、多額の借金を抱えたり、家計が破綻したりすることがあります。後で大きな後悔と金銭的な負担に苦しむケースは少なくありません。
      • 人間関係の悪化: 多弁になったり、他者の意見を聞かずに強引に進めたり、怒りっぽくなったりすることで、友人や家族との関係に亀裂が入ることがあります。トラブルメーカーと見なされてしまったり、周囲に迷惑をかけてしまったりすることに苦しみます。
      • 仕事や学業の継続困難: 躁状態での過剰な活動や衝動性、あるいはうつ状態での意欲低下により、仕事や学業を継続することが難しくなります。休職や退職、休学や退学に追い込まれるケースも珍しくありません。躁状態での自信過剰な言動が原因で、周囲からの信頼を失うこともあります。
      • 睡眠リズムの崩壊: 睡眠時間が極端に短くなったり、日中も眠り込んだりすることで、日常生活のリズムが大きく乱れ、体調管理が困難になります。家族との生活リズムのズレも、苦悩の原因となります。
  • 双極II型障害
    • 症状の深掘り:
      • 軽躁状態: 躁病よりは軽い躁状態です。気分が上向きで活発になる、社交的になる、仕事の効率が上がる、睡眠時間が短くて済むなど、一見「調子が良い」と捉えられがちです。しかし、集中力低下やイライラを伴うこともあり、周囲との軋轢が生じることもあります。軽躁状態は本人が「絶好調」と感じるため、病気と気づきにくく、診断が遅れるケースも少なくありません。
      • うつ状態: (後述のうつ病の症状に類似)
    • 日々の苦悩(日常の困りごと):
      • うつ状態での機能低下: うつ状態の期間が長く、仕事や家事、育児といった日常生活のタスクがこなせなくなり、自己肯定感が低下します。「怠けている」と自己を責めてしまうこともあります。
      • 軽躁状態での見過ごし: 軽躁状態は「元気な時期」と見過ごされがちですが、その後のうつ状態の重症化につながることがあり、適切な治療機会を逸する可能性があります。周囲も「ちょっとハイになっているだけ」と軽く見てしまうため、本人も病識を持ちにくいです。
      • 人間関係のすれ違い: 軽躁状態での活動的な姿と、うつ状態での引きこもりがちな姿とのギャップに、周囲が戸惑い、理解を得にくいことがあります。「気分屋だ」「わがままだ」と誤解されてしまうことも少なくありません。
      • 診断の困難さ: 軽躁状態を病気と認識しにくいため、長年「うつ病」として治療を受け、適切な診断と治療が遅れることに苦悩するケースが多く見られます。

【第3部】へ続く

次の【第3部】では、抑うつ障害群不安症群の症状と日常生活で直面する日々の苦悩について、さらに詳しく掘り下げていきます。