
【第1部:神経発達症 – 理解されない「私」の生きづらさ】
「なんだか、周りの人たちとは違う気がする」「どうしてこんなに生きづらいんだろう?」
そう感じたことはありませんか? 精神疾患は、私たちの心や脳の機能に影響を与え、その特徴は多岐にわたります。そして、その特性ゆえに、日常生活で様々な「困りごと」や「日々の苦悩」に直面することが少なくありません。目に見えにくい症状だからこそ、周囲から理解されにくく、一人で抱え込んでしまいがちです。
この6部作のブログでは、主要な精神疾患について、その病状や特性を深く掘り下げ、日常生活で具体的にどのような「日々の苦悩」を抱えているのかに焦点を当てて解説します。ご自身や大切な人の「いつもと違う」が何であるのか、その苦悩を理解するための手助けになれば幸いです。
最初の【第1部】では、神経発達症を取り上げます。生まれ持った脳の特性が、日常生活でどのように現れ、どのような苦悩につながるのかを見ていきましょう。
1. 神経発達症群:生まれ持った特性と、それによる「理解されない」困難
神経発達症は、脳の発達の仕方の違いによって生じる特性で、多くの場合、幼少期にその特徴が顕在化します。これは「病気」というよりも、生まれ持った「特性」として捉えられ、社会生活の中で困難が生じる場合に支援が必要となります。しかし、その特性が周囲から理解されないことで、大きな苦悩を生むことがあります。
- 知的発達症
- 症状の深掘り: 知的能力(学習、問題解決、計画など)と、適応機能(日常生活、社会性、コミュニケーションなど)の両方に顕著な限界が見られます。単に勉強が苦手というだけでなく、抽象的な思考や問題解決能力、計画を立てる力に困難を抱えるため、日常生活のあらゆる場面でつまずきを感じやすいです。
- 日々の苦悩(日常の困りごと):
- 新しい環境への適応: 引っ越しや転職、学校のクラス替えなど、環境が大きく変わると、新しいルールや手順を覚えるのに非常に時間がかかり、強い混乱と不安を感じます。周囲からは「覚えが悪い」「やる気がない」と誤解され、叱責を受けることも少なくありません。
- 金銭管理: 収入と支出のバランスを取るのが難しく、計画的にお金を管理できないことがあります。つい衝動的に使いすぎてしまったり、必要な公共料金の支払いを忘れてしまったりすることで、経済的な困窮やトラブルに巻き込まれるリスクが高まります。
- 社会的なルール: 暗黙の了解や場の空気を読むことが苦手で、集団生活で浮いてしまったり、誤解されたりすることがあります。「普通はこうする」ということが感覚的に分からないため、人間関係の摩擦が生じやすく、「なぜ自分だけうまくできないんだろう」という自己肯定感の低下につながります。
- 自己管理の困難: 食事の準備、掃除、洗濯、公共交通機関の利用など、日常生活の基本的なタスクを一人で行うのが難しい場合があります。手順を覚えられなかったり、複数のことを同時にこなすのが苦手だったりするため、他者に依存せざるを得ない状況が続くことに苦悩します。
- 自閉スペクトラム症 (ASD)
- 症状の深掘り: 社会的コミュニケーションと相互作用の困難、および限定された反復的な行動や興味が主要な特性です。スペクトラム(連続体)であるため、症状の出方は人によって大きく異なりますが、根本には「非定型的な情報処理」があります。
- 日々の苦悩(日常の困りごと):
- 人間関係のすれ違い: 相手の表情や声のトーンから感情を読み取ることが難しく、言葉の裏にある意図や皮肉、冗談が通じないため、友人関係や職場の人間関係で誤解が生じやすく、孤立感を感じることが多々あります。良かれと思ってした言動が、相手を不快にさせてしまうことも。
- 予期せぬ変化への強い不安: 電車の遅延や予定の急な変更、職場の配置換えなど、急な変化に対応できず、強い不安を感じてパニックになったり、行動が停止してしまったりすることがあります。予測できない状況に極度のストレスを感じるため、新しい挑戦や環境の変化を避ける傾向にあります。
- 感覚過敏による苦痛: 蛍光灯の光、満員電車の騒音、特定の服のタグ、特定の食べ物の匂いや食感などが極度のストレス源となり、日常生活のあらゆる場面で苦痛を感じます。これにより、外出や特定の場所での活動が困難になり、行動範囲が狭まることに苦悩します。
- 仕事での困難: 暗黙の指示が理解できなかったり、マルチタスクが苦手だったりするため、職場での適応に苦労することがあります。自分のペースで集中できる環境でないと、能力を発揮しにくく、「仕事ができない人」と評価されてしまうことに深く傷つきます。
- 注意欠如・多動症 (ADHD)
- 症状の深掘り: 不注意、多動性、衝動性が主な症状で、学業や仕事、人間関係に影響を及ぼします。これらの症状は単独で現れることも、組み合わさって現れることもあります。
- 日々の苦悩(日常の困りごと):
- 仕事や学業でのミスと自己嫌悪: 集中力が続かない、細かいミスが多い、締め切りを忘れる、書類の記入漏れなど、「うっかり」による失敗が頻繁に起こります。これにより、評価が下がったり、業務が滞ったりすることで、**自己肯定感が著しく低下し、「自分はダメな人間だ」**と深く落ち込むことが多いです。
- 整理整頓の困難と時間管理の失敗: 物をなくしやすいだけでなく、部屋が散らかりやすく、探し物に膨大な時間がかかります。締め切りに間に合わない、約束の時間に遅れるなど、計画を立てて実行するのが苦手です。「もう少しで終わる」と思っていても、気づけば時間が大幅に過ぎている、といった経験を繰り返し、自己嫌悪と焦燥感に苛まれます。
- 衝動的な言動による人間関係のトラブル: 相手の話を遮ってしまったり、感情的になって怒鳴ってしまったりすることで、対人関係でのトラブルが絶えません。深く考えずに行動して後で後悔することも多く、「またやってしまった」という罪悪感と、周囲からの孤立に苦しみます。
- 衝動的な行動による金銭問題: 衝動買いやギャンブルなど、目先の快楽に走ってしまい、後で経済的に困窮することがあります。「なぜ自分は我慢できないのか」と、自分を責めることになります。
【第2部】へ続く
次の【第2部】では、統合失調症と双極性障害の症状と、日常生活で直面する日々の苦悩について、さらに詳しく掘り下げていきます。